佳子の病室に残されていたのは
一枚の紙切れだった。

オレと彼女をつなぐ頼りない糸を
断ち切るための書類。


それは、とても簡単で当たり前のことだ。

オレの両親や友人たちのように
また、次の妻を迎えればいい。
そうしなくちゃいけない。


だけど、オレは………

おとうさんとおかあさんと
国のえらいひとがきめたから……
おとなのひととおとこのひとがきめたから、
わたしはとしあきさんのおよめに
なりました。
あかちゃんをうむために。
だから、あかちゃんをだめにしてしまった
わたしにおよめさんでいる資格は
ないのです。

そのことはよくわかってるのに、
どうして?
むねがいたくて、いきがくるしくて、
なみだがでてくる。

いやだよ……………
としあきさんとはなれたくないよ。





「佳子」

………え?
としあきさんの声?

衣舞ちゃんと、おうちにいるはずでしょう?
 
 
「一緒に帰ろう、佳子」

「わたし……だって、もう、
 としあきさん−おにいちゃんの
 およめさんじゃないから………」

ふりむけずにいるわたしの背中が
ふっとあたたかくなりました


「泣いてるね?」

わたしはひっしに首をふり、なみだを
こらえていいました

「わたし…おにいちゃんがすき…
 だから、しあわせになってほしいの。
 おにいちゃんがしあわせなら、
 わたしもしあわせ……
 わたしといたら、とし…
 おにいちゃんはしあわせになれないもん」

「だいじな人を泣かせて手に入れた幸せなんか…偽物だ」


…いつからだろう。
女の子は 子供を産む道具じゃない。
勝手な欲望を満たす商品でもない。
そんな あたりまえのことを忘れた時から
オレたちは ゆるやかな滅びの道を歩き始めたんだ。

馬鹿だと言われても、認められなくてもいい。
オレはただ、腕の中の小さな温もりを失いたくなかった。もう二度と。


「オレは佳子と一緒にいたい。
 どうか、ずっと…オレの奥さんでいてください」

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